「数ヶ月前から予約していた七五三、まさかの雨予報…」
楽しみにしていたハレの日だからこそ、天気予報に雨マークがついているのを見た時のショックは計り知れません。「着物が濡れて汚れてしまったらどうしよう」「子供がぐずって大変なことになるんじゃないか」と、不安で胸がいっぱいになってしまうことでしょう。
でも、どうかあまり落ち込まないでください。年間何百組ものご家族を撮影してきたカメラマンとしての経験から申し上げますと、しっかりとした準備さえあれば、雨の日の七五三も決して怖いものではありません。むしろ、雨の日だからこそ残せる、情緒あふれる美しい写真もあるのです。
この記事では、雨天時の「延期か決行か」の判断基準から、当日を快適に過ごすための具体的な対策、そして雨の日ならではの撮影の楽しみ方までをプロの視点で丁寧にお伝えします。記事を読み進めるうちに、きっと「雨の七五三も悪くないかも」と前向きな気持ちになれるはずですよ。
- 七五三の予定日が雨予報で落ち込んでいる方
- 雨天時に延期すべきか決行すべきか迷っている方
- 雨の日でも着物を汚さず快適にお参りする対策を知りたい方
実はメリットも多い?プロが「雨の日の七五三」をおすすめする理由

「雨の日の撮影なんて、暗くてどんよりした写真になるんじゃない?」と思われている方も多いかもしれません。しかし、私たちプロのカメラマンからすると、雨の日は「光が柔らかく、情緒的な写真が撮れる」という大きなメリットがあるのです。
カンカン照りの晴天よりも、しっとりとした雨模様の方が、日本の伝統的な着物の美しさは際立ちます。ここでは、雨の日だからこそ得られる3つの嬉しいポイントをご紹介します。これを読めば、雨予報が少し楽しみに変わるかもしれません。
- 参拝客が少なく、貸切状態で撮影できる
- しっとりとした光で着物が美しく映える
- 雨の日限定アイテムで特別な思い出になる
参拝客が少ないため、背景への映り込みを気にせず撮影できる
七五三のハイシーズンである10月や11月の週末は、人気の神社となると大変な混雑になります。晴れた日には、記念写真を撮ろうとしても背景に他の参拝客が写り込んでしまったり、順番待ちが発生してしまったりすることも珍しくありません。せっかくの家族写真なのに、後ろに知らない人が写っていると少し残念な気持ちになりますよね。
しかし、雨の日は参拝客の数がぐっと減ります。普段なら人でごった返している参道やフォトスポットも、雨の日なら貸切状態で使えることが多くなるのです。周りの目を気にせず、ご家族だけでゆったりと時間をかけて撮影できるのは、雨の日ならではの特権と言えるでしょう。
背景に人がいないすっきりとした写真は、まるでポスターのような完成度になります。静かな境内で、ご家族の話し声や笑い声が響く、落ち着いた時間を過ごせるのも大きな魅力です。人混みが苦手なお子様にとっても、ストレスの少ない環境でお参りができるのは嬉しいポイントです。
雨に濡れた石畳や緑が艶やかで、着物が美しく映える写真になる
写真撮影において、実は「直射日光」は扱いや難しい光でもあります。強い日差しは顔に濃い影を作ってしまったり、まぶしくてお子様が目を細めてしまったりする原因になるからです。特に着物は布面積が広いため、強い光が当たると色が白飛びしてしまうこともあります。
一方で、雨や曇りの日の空は、天然の「巨大な照明ディフューザー(光を和らげる幕)」のような役割を果たしてくれます。雲を通した柔らかい光は、肌の質感を滑らかに見せ、着物の繊細な色柄や刺繍の立体感を鮮やかに引き立ててくれるのです。女性にとっても、肌が綺麗に写りやすい雨天の光は実は味方なのです。
また、雨に濡れた神社の石畳や木々の緑は、晴れの日よりも色が濃く、艶やかに見えます。しっとりとした背景に、色鮮やかな着物が浮かび上がるような、ドラマチックで深みのある写真が残せるでしょう。これは晴れの日には絶対に撮れない、特別な美しさです。
番傘や長靴など「雨の日限定」のアイテムで特別な思い出が残る
雨の日には、雨の日だけの「特別な演出」ができます。その代表格が「和傘(番傘)」です。着物姿に和傘をさした姿は、それだけで絵になる美しさがあります。雨粒が傘にあたる音や、傘越しに見る景色も、お子様にとっては新鮮な体験となるはずです。赤や紫の和傘は、写真全体を華やかに彩るアクセントにもなります。
また、小さなお子様なら、あえてお気に入りの「長靴」を履いて撮影するのもおすすめです。着物の裾からチラリと見えるカラフルな長靴は、子供らしくてとても可愛らしいものです。「あの時は雨で大変だったけど、長靴姿が可愛かったね」と、数年後に写真を見返した時に会話が弾む、素敵なアクセントになります。
- 和傘はレンタルできるスタジオや出張撮影も多いので要チェック
- 透明なビニール傘なら、光を遮らず顔色も明るく写ります(シールでデコレーションするのもアリ!)
- 長靴は着物の色に合わせたり、あえて派手な色を選んだりして楽しみましょう
当日を快適に過ごすための「事前準備」と「着付け・ヘアメイク」のコツ
雨天決行を決めたなら、次は「いかに濡らさず、快適に過ごすか」を考えましょう。当日のトラブルの多くは、事前のちょっとした工夫で防ぐことができます。特に着物やヘアセットに関しては、雨対策をしているかしていないかで、当日の疲れ具合が大きく変わってきます。
ここでは、ご自宅や美容室で準備する段階からできる、具体的な対策テクニックをご紹介します。パパとママが協力して、お子様を雨から守ってあげてくださいね。
着物の裾対策:移動中は「大きめのクリップ」や洗濯バサミで持ち上げる
雨の日の着物で一番心配なのが「泥はね」です。特に小さなお子様は、歩くたびに裾(すそ)が地面に触れやすく、気づかないうちに泥だらけになってしまうことも。これを防ぐために、移動中は裾を少し持ち上げて固定しておくのが鉄則です。
着付けのプロにお願いする場合、「今日は雨なので、丈を少し短めに着付けてください」と相談してみるのも一つの手です。また、ご自身で対策する場合は、大きめのクリップや洗濯バサミを用意しておきましょう。移動の時だけ着物の裾(上前と下前)をめくり上げ、帯に挟むかクリップで留めておくと安心です。帯の下あたりで留めると着崩れもしにくくなります。
「見た目が悪いのでは?」と心配になるかもしれませんが、撮影の時やお参りの時だけクリップを外せば問題ありません。大切な着物を守るために、移動中は割り切って対策することをおすすめします。クリップも可愛らしいデザインのものを用意すれば、お子様も喜んでつけてくれるかもしれません。
足元の工夫:移動は「長靴・スニーカー」で!草履は撮影の瞬間だけ履く
慣れない草履(ぞうり)は、晴れている日でも歩きにくいものです。ましてや雨の日となると、足袋が濡れて不快な思いをしたり、滑って転んでしまったりする危険性があります。足袋が濡れると冷えてしまい、お子様の機嫌が一気に悪くなる原因にもなります。
そこでおすすめなのが、「移動用」と「撮影用」で履き物を分けることです。駐車場から神社への移動や、境内での移動中は、履き慣れたスニーカーや長靴を履かせましょう。そして、撮影スポットに到着した時や、御祈祷で拝殿に上がる直前に草履に履き替えるのです。
これなら足袋が濡れる心配もなく、お子様も元気に歩くことができます。荷物は少し増えますが、お子様の機嫌を損ねないためにも、ぜひ取り入れていただきたいテクニックです。脱いだ靴を入れるためのビニール袋も忘れずに持参しましょう。
ヘアセットの注意点:湿気で崩れないよう「まとめ髪」でしっかり固める
雨の日は湿気が多く、せっかく可愛くセットした髪型も崩れやすくなります。特に女の子の日本髪や巻き髪スタイルは、湿気を含むと重みでダレてしまったり、アホ毛が目立ってしまったりしがちです。顔まわりの後れ毛も、雨に濡れるとペタッとしてしまいがちなので注意が必要です。
雨予報の日は、ふんわりとしたダウンスタイルよりも、きっちりとまとめたアップスタイルの方が崩れにくく安心です。美容室でセットしてもらう際は「雨なので崩れにくいように、ハードスプレーでしっかり固めてください」とオーダーしておきましょう。
また、ママのヘアセットも同様です。お参りの最中は傘をさしたりお子様を抱っこしたりと動き回ることが多いため、顔周りの髪はすっきりとまとめておくと、風や湿気で乱れるストレスを軽減できます。万が一崩れた時のために、アメピンやコームをバッグに忍ばせておくと、いざという時にさっと直せて便利です。
雨の日の撮影を成功させるための「当日の持ち物」と「撮影の心得」

準備万端で迎えた当日、あとは現場でいかにスムーズに動けるかが勝負です。雨の日は晴れの日よりも荷物が多くなり、どうしてもバタバタしてしまいがちです。しかし、事前に「何を持っていくか」「どう動くか」をイメージしておくだけで、気持ちの余裕がまったく違ってきます。
ここでは、雨の七五三を乗り切るための必須アイテムと、現場で素敵な写真を残すための心構えをお伝えします。これさえ押さえておけば、どんな天気でも笑顔で一日を過ごせるはずです。
- 必須の持ち物をチェックする
- 濡れない撮影スポットを把握する
- 親御さんの笑顔で雰囲気を明るくする
必須の持ち物リスト:透明傘・大きめのタオル・着替えの靴下
雨対策グッズは数あれど、絶対に忘れてはいけないのが以下のアイテムです。特に「タオル」は、予想以上に使う場面が多いので、多めに持っていくと「持ってきてよかった!」と助けられる場面が必ずあります。
- 透明なビニール傘:光を遮らず、お子様の表情も明るく写ります。コンビニ等で売っている大きめのサイズがおすすめで、人数分あると安心です。
- 大きめのタオル(3〜4枚):体や着物を拭く用だけでなく、車に乗る際にシートに敷いたり、濡れたベンチを拭いて座ったりするのにも役立ちます。色は白や薄い色が着物に色移りせず安全です。
- 替えの足袋・靴下:万が一水たまりに入ってしまっても、すぐに履き替えれば不快感なく過ごせます。大人用の替え靴下もあると良いでしょう。
- ビニール袋(数枚):濡れたタオルや汚れた靴、ゴミを入れるために必須です。ジップロックのような密閉できる袋なら、水漏れの心配もありません。
- ひと口サイズのお菓子:雨で移動時間が長引いた時など、お子様の気分転換に効果絶大です。手や口が汚れないグミやラムネがおすすめです。
特にビニール傘は、シンプルで視界を遮らないため撮影に最適です。色付きや柄付きの傘は、顔に色が被って写ってしまったり、着物の柄と喧嘩してしまったりすることがあるため、撮影用としては透明なものを用意することをおすすめします。
撮影場所の選び方:屋根のある「門の下」や「回廊」をメインに回る
雨の日は、無理に雨ざらしの場所で撮影する必要はありません。神社の境内には、意外と雨をしのげるスポットがたくさんあります。事前に場所を知っておくだけで、当日の動きがスムーズになります。
例えば、大きな屋根のある「山門」の下や、社殿をつなぐ「回廊」、社務所の「軒下」スペースなどは絶好の撮影ポイントです。こうした場所は屋根が光を遮ってくれるため、日陰ならではの柔らかく落ち着いた光で撮影できます。また、背景に雨粒や濡れた緑が入ることで、奥行きのある写真になります。
出張カメラマンに依頼している場合は、カメラマンが事前に雨宿りできるスポットをロケハン(下見)していることがほとんどです。「ここで撮りましょう」というプロの提案に身を任せれば、濡れずにバリエーション豊かな写真を残すことができます。自分たちで撮影する場合も、まずは「屋根のある場所」を探して拠点にすると良いでしょう。
親御さんの心構え:「雨も演出」と割り切り、誰よりも笑顔で楽しむこと
最後に、最も大切なことをお伝えします。それは、パパとママ自身が「雨の日を楽しむこと」です。実はこれが、良い写真を撮るための最大の秘訣でもあります。
お子様は、親御さんの表情をとても敏感に感じ取ります。パパやママが「あーあ、雨で最悪だね」「濡れないで!汚さないで!」と眉間にシワを寄せていると、お子様も不安になり、表情が曇ってしまいます。逆に、親御さんが「雨だね!長靴チャプチャプ楽しいね!」と笑顔で接していれば、お子様にとってもその日は「楽しい冒険の日」になるのです。
雨も一つの演出、今日だけの特別なシチュエーションだと割り切ってください。着物が多少濡れても、クリーニングに出せば綺麗になります。それよりも、ご家族全員が心から笑っている瞬間こそが、何物にも代えがたい宝物になります。雨音さえもBGMにして、特別な一日を思いっきり楽しんでください。
まとめ | 万全の雨対策をして、記憶に残る七五三を迎えましょう

七五三の当人が雨予報だと、どうしてもネガティブな気持ちになってしまうものです。しかし、ここまでご紹介してきたように、しっかりとした準備と心構えがあれば、雨の日は決して残念な日ではありません。
むしろ、参拝客が少なく落ち着いて撮影ができたり、しっとりと艶やかな写真が残せたりと、雨の日ならではのメリットもたくさんあります。延期をするか決行をするか、お子様の年齢や体調と相談しながらベストな選択をしてください。
そして何より大切なのは、ご家族が笑顔でその日を迎えることです。「あの時は大雨で大変だったけど、すごく楽しかったね」と、数年後、数十年後に笑い合えるような、素敵な七五三になることを心から願っています。